この記事は以下のような方にオススメです。
- 『意見不表明』『結論不表明』って何?と思われている方
⇒元監査人の筆者がそれぞれの意味について解説しています。 - 今回『意見不表明』『結論不表明』となった背景を知りたい方
⇒調べてみた結果について筆者の経験を踏まえて説明しています。
どうもこんにちは、じょんです。
先日話題となったコチラのニュース。
上場会社であるエデュラボの財務諸表に対して、監査人が『意見不表明』『結論不表明』としたことで株価が暴落しました。
さて、皆さんはこの『意見不表明』『結論不表明』という言葉の意味をご存知でしょうか?
今回は、監査法人で監査人として働いていた筆者がこれらの言葉の意味について解説していきます。
正直多くの方にとっては馴染みのない言葉・業界かと思いますが、監査上いかに重要な意味を持つのかについて知る機会になるかと思いますので、ぜひご覧ください。
監査制度の概要
監査とレビュー
あまり知られていないことですが、広義での『監査』は、やや狭義では『監査』と『レビュー』の2つに分類することが出来ます。
上場企業を前提にそれぞれを端的に説明すると以下のようになります。
- 監査(Audit):
年度末に行う、財務諸表が適切に作成されているか否かを検証する手続。 - レビュー(Review):
第1~第3四半期末に、四半期財務諸表が適切に作成されていない点がないかを検証する手続。監査と比べて、財務数値の比較分析など、やや簡便的な手続が実施される。
上場企業であれば、年に4回、四半期ごとに財務諸表を公表する義務を負っていますが、第1~第3四半期末に公表する四半期財務諸表に対しては『レビュー』が、年度末に公表する財務諸表に対しては『監査』が実施されることが一般的です。
そして、上記の通り『監査』と『レビュー』では実施される手続の水準が異なっており、監査人が最終的に表明する結果についても、『監査』の場合には『意見』、『レビュー』の場合には『結論』と明確に区別されている点が特徴です。
なお、非上場企業の場合には、基本的には四半期毎のレビューは求められず、一定規模以上の企業は年1回の『監査』のみが制度上求められ、一方で小規模の企業であれば『監査』が必須とはなりません。
意見・結論の種類
『意見』と『結論』はそれぞれ『監査』と『レビュー』の結果として表明されるものですが、いずれも手続を行った結果に応じて、以下の通りいくつかのバリエーションが存在します(『結論』については割愛しますが、概ね監査と同様と理解いただければ十分です)。
- 無限定適正意見(Unqualified Opinion):
財務諸表に重要な誤りが発見されなかった場合に表明される。 - 限定付適正意見(Qualified Opinion):
一部の領域について誤りが発見された、もしくは、手続が実施できなかったが、財務諸表全体に与える影響が重要ではない場合に表明される。 - 不適正意見(Adverse Opinion):
重要な誤りが発見され、その誤りが財務諸表全体に対して非常に重大である場合に表明される。 - 意見不表明(Disclaimer of Opinion):
手続を実施できなかった領域が財務諸表全体において重要である場合に選択される。
筆者の感覚からすると、その良し悪しはさておき、世に出される監査意見の95%以上は『無限定適正意見』、つまり、大きな問題が発見されなかったというものとなっています。
『意見不表明』となった背景に関する考察
今回のエデュラボの件で『意見不表明』と判断されたというのは、監査人が特定の領域に対して監査手続を実施できず、また、その領域が財務諸表全体に与える影響が重要であることから、財務諸表が適正であるか否かについて監査人として意見を表明できないということを意味します。
ここでいう『監査手続を実施できず』というのは、監査人が監査を行う上で必要と判断した資料を企業側が用意できない場合等を指しますが、プレスリリースを読む限り、関係会社を絡めた特定の取引について、企業側が取引条件を裏付ける資料を開示しきれていないということが背景にあるようです。
2021 年 9 月期第 3 四半期レビュー手続の過程で、あずさ監査法人から、当社及び当社連結子会社である株式会社教育測定研究所と、その取引先である法人 A との間で行う CBT に関する共同事業に係る取引について、経済合理性の調査を行う必要があるとの連絡を受け調査を開始しましたが、本件取引については、その取引対象の実在性自体には疑義は生じていないものの、その価格の算定の根拠等が十分とはいえないものも存在するとの指摘を受けております。
当社は、二度にわたり特別調査委員会の調査範囲を拡大し、売上高に関する事実関係、内部統制への影響及び他の財務数値への影響についての調査を継続中である。当該調査の結果によっては、売上高以外の勘定科目を含めて、四半期連結財務諸表に重要な影響を与える可能性がある。
上記により、あずさ監査法人は、当社の前連結会計年度に係る連結財務諸表に対して意見を表明する根拠となる十分かつ適切な証拠を入手することができなかった。
筆者の経験からすると、本件のように特別調査委員会が登場するケースというのは、往々にして会計不正、つまりは『粉飾』が絡むことが多いです。
客観的にみて、本件においても粉飾が行われていた可能性が高く、少なくとも監査人としては、粉飾が行われていた可能性を否定できないからこそ『意見不表明』『結論不表明』という判断を下したのではないかと推察されます。
一般に上場会社の監査を行う場合、規制上、決算日から何日以内に監査人の意見・結論を付した財務諸表を公表しなければならないとするルールがあります。
仮に期限内の公表が出来ない場合には、『上場廃止』に追い込まれてしまうため、監査人としても上場廃止による社会的損失を避けるべく、基本的には期限内に結論を出すべきという強いプレッシャーに晒されています。
そしてそのプレッシャーは期限に対するものだけではなく、意見や結論の種類に対しても同様で、例えば『不適正意見』を表明したとすると、その会社の株価が急落することは容易に想像できますから、『無限定適正意見』以外の意見や結論を表明することに対して、監査人側としては非常に慎重です。
にもかかわらず、今回『意見不表明』としたのは、監査人側として、十分な証拠が収集できていない中で意見を表明することの方が、よりリスクが高いと判断されたことが伺えます。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
筆者は10年強、監査法人で監査人として勤務していた経験がありますが、その中で『意見不表明』としたことは1回もなく、恐らくほとんどの監査人にとっては一生縁がないというのが実情かと思います。
今回のように株式市場を含め相当なインパクトが生じますから、正直『意見不表明』を出すこと自体、相当な覚悟が必要となりますが、その意味で、今回の監査人の対応は一定程度評価されるべきというのが元同業者としての感覚です。
それではまた。
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