【M&Aにおける重要性急上昇中】知っておくべき『ESGDD』の基礎

資産形成

この記事は以下のような方にオススメです。

こんな方にオススメ!

  • 『ESGDDって何?』という方
    ⇒一般的な定義やその目的について解説しています。
  • M&Aで『ESGDD』を担当することになったが何から手を付けていいかわからない方
    ⇒UNPRIが公表している質問例(DDQ)についてまとめています。
  • ESGについて勉強している方
    ⇒関連する用語として知っておくといつか役に立つかもしれない『ESGDD』について解説しています。

どうもこんにちは、じょんです。

先日目にしたコチラの記事。

G20、石炭火力へ金融支援停止で合意 21年末までに実施 途上国へのワクチン供給促進も確認 - 日本経済新聞
【ローマ=細川倫太郎】20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)は31日、首脳宣言を採択して閉幕した。気候変動分野では2021年末までに海外の石炭火力発電への公的な金融支援を停止することで合意した。世界の温暖化ガス排出量を「今世紀半ばごろまで」に実質ゼロにする目標でも一致。新型コロナウイルス対策では、途上国へのワクチ...

石炭火力への金融支援を停止するとのことで、環境を配慮した事業活動が必須となっている中、日本においてもビジネスの世界では企業の投資活動の観点に『ESG』が頻出するようになるなど、関心が高まっているのではないでしょうか。

今回は、そんなESGを投資を行う上で今後盛り上がりを見せていくであろう、『ESGDD』について筆者が調べてみた内容を解説していきます。

ESGDDの概要

ESGのおさらい

あらためて『ESGって何?』という方のためにその定義を確認しておきます。

ESG(いーえすじー):
環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)それぞれの頭文字をとったもので、これらの重要課題に対して真摯に取り組んでいる企業へと投資することを『ESG投資』と呼ぶ。

私たち日本人の年金基金を運用するGPIFも、2017年よりこのESG投資に舵を切っており、私たち国民も間接的にESG投資を行っていると言えるわけです。

ESG投資|年金積立金管理運用独立行政法人
年金積立金管理運用独立行政法人のWebサイトです。環境(E)、社会(S)、ガバナンス(GPIF)を考慮した投資に関する情報を掲載しています。

ESGDDの目的

さて、話を戻しますが、今回取り上げるのは『ESGDD』、ここでいう『DD(でぃーでぃー)』というのは『Due Diligence(でゅー でりじぇんす)』の略で、企業がM&Aなどを行う際に、買収の対象となる企業の詳細を調査する作業のことを意味します。

DDにはいくつかの種類があり、事業性を調査する『ビジネスDD(BDD)』、財務数値を調査する『財務DD(FDD)』、税務面を調査する『税務DD(TDD)』、ITシステムの整備状況等を調査する『ITDD』などがメジャーです。

『ESGDD』というのは、これらのDDと同様に、買収の対象となる企業のESGへの取り組み状況を調査することを指し、これにより買収する側の企業は、ESGの観点から本当に投資を行うべきか否かの判断を下すことが可能になるわけです。

昨今は投資家のESGに対する意識が非常に高まっていますから、仮にESGへの取り組みが不適切な企業を買収してしまった場合、買収する側の企業の投資家から相当なバッシングを受けることにも繋がるため、企業としては事前に十分な調査を行うことが求められているわけです。

広義のESGDD

なお、広義のESGDDには、企業内もしくは企業が属するサプライチェーンに対するESGの観点からの企業独自のリスク評価も含まれるようです。

以下は、ドイツとフランスにおいて、一定規模以上の企業に対してこうした企業内部のESGDDを義務付ける規制について触れられています。

Impact of French and German ESG Due Diligence Laws
A new German law and litigation in France are forerunners of an EU trend to regulate ESG risks along supply chains.

(少なくとも筆者の知る限りにおいて)まだ日本においてはこうした規制はないことからも、日本の環境対策が欧米の先進国に対して遅れをとっていることがわかりますが、気候変動リスクに関する情報開示が義務化されるなど、少しづつ進歩している印象です。

気候リスク開示、日本は22年から 一部企業で実質義務 - 日本経済新聞
日本では2022年4月から一部の上場企業で、主要国の金融当局が立ち上げた「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に基づく気候変動リスクの情報開示が実質的に義務づけられる。国際社会ではTCFDの考え方を基にした共通ルール策定に向けた議論が進んでおり、国内企業も地球温暖化対策で投資家から厳しいチェックを受け...

ESGDDにおける調査内容

UNPRIのDDQについて

さて、このESGDDですが、Google検索の上位から推察する限り、日本においては大手会計事務所系列の会社が先行して取り組みを強化しているようで、2021年6月にKPMGジャパンが、同8月にはPwCアドバイザリーが、それぞれESGDDへの取組強化を表明しています。

KPMGジャパン、ESG経営に対応したデューデリジェンスサービスを拡充
KPMGジャパン(東京都千代田区、チェアマン:森 俊哉)は、M&Aのトランザクションプロセスの一環として、投資先企業のESGリスク・機会の検討と評価を行うデューデリジェンス(以下、ESGデューデリジェンス)機能を強化し、デューデリジェンスサービス全体を高度化します。
PwCアドバイザリー、M&Aにおける「ESGデューデリジェンス」を強化
PwCアドバイザリー合同会社は8月5日より、M&A(ディール)における「ESGデューデリジェンス(ESG DD)」を強化し、サステナビリティの時代に沿った総合的なディール・サービスを提供開始します。

これらの公表内容をご覧いただくと分かるのですが、ESGDDの概要については理解ができるものの、実際にDDにおいてどのような調査をするのかについては言及されていないように見受けられます。

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そこで筆者が行きついたのが、国連により支援をされているPRI(Principles for Responsible Investment)というイニシアチブに関する以下のWEBサイトです。
(国連(United Nations)の頭文字を含め、UNPRIと呼ばれることもあるようです)

PRI | Home
The PRI, a UN-supported network of investors, works to promote sustainable investment through the incorporation of environmental, social and governance factors ...

コチラのサイトでは機関投資家の意思決定プロセスにESG課題を反映させる上での世界共通のガイドラインが示されていますが、その中に、インフラファンド投資家向けのESGDDの想定質問(DDQ)が掲載されており、以降は、このDDQの大項目ごとに内容をまとめていきます。

なお前提として、あくまでこのDDQはインフラファンド投資家向けのものであり、M&A等におけるESGDDの過程においては、このDDQをベースに各社のESGポリシー等をもとに、自社のポリシーに沿った投資となりえるかの判断を行うに足る質問へと改良することが求められるであろう点にはご留意ください。

ファンドマネージャーにおけるESG⽅針

まずはESG投資に関する大前提としてのESG方針に全般的な内容がDDQでは問われています。

1. 貴ファンドのESG⽅針はどのようなものですか。また、ESGが貴ファンドの投資アプローチにどう反映されていますか。

  1. 投資プロセス及びポートフォリオ管理プロセスにおいてESGを把握し、管理するアプローチを⽰してください。
  2. 今後ESGの管理を⾼度化していく計画があれば、ご教⽰ください。
  3. 責任投資を推進する国際標準、業界(団体)ガイドライン、報告の枠組み、イニシアティブにコミットしていますか。
  4. インフラファンド投資家からの要請があった場合には、ファンド設⽴契約、リミテッド・パートナーシップ契約やサイドレターにおいて、ESGの導⼊およびルール化に関する明⽰的なコミットメントを⾏なっていますか。
引用元:https://www.unpri.org/download?ac=5729

ファンドマネージャーの投資判断プロセスとESG

次に、先に触れたESG方針に対して、実際の投資判断のプロセスにおいては、どのように方針にそった対応を行っているのか、直近実績の開示を含め問われています。

2. 貴ファンドは重要性の⾼いESGリスクをどのように把握・管理し、また投資先価値向上のためにESGをどのように活⽤していますか。

  1. ESGの各要因のいずれが⼤きな影響を与えるかというマテリアリティにつき、貴ファンドではどのように定義していますか。 また、貴ファンドの直近の投資案件で、投資先にとって重要性が⾼いと判断したESGの事例を2、3挙げてください。
  2. (i) 潜在的に重要なESGリスク(⻑期リスクを含む)、(ii) ESGを通じたバリューアップ機会を把握するためのプロセスをご教⽰ください。また、貴ファンドの直近の投資案件を⽤いて、当プロセスを具体事例の形で⽰してください。(iii) デュー・デリジェンスにおける、上記プロセスの時間軸についてもご教⽰ください。
  3. 上記プロセスを通じて洗い出された(i) 潜在的に重要なESGリスクや(ii) ESGを通じたバリューアップ機会の存在は、貴ファンドにおける投資判断にどのような影響を与えますか(例えば、当該投資判断の妥当性確認、投資額の減額、投資⾒送り等)。また、貴ファンドの直近の投資案件における具体例を挙げてください。
  4. 投資委員会等の最終的な意思決定機関において、ESGリスクやESG機会の所在を巡る報告や検討はどのように⾏われ、かつそれは⽂書の形でどのように記録されますか。
  5. (個別の投資案件レベルではなく)ファンドレベルにおける、ESGリスクとESG機会の把握・管理を巡る貴ファンドのアプローチ及びプロセスを説明してください(例えば、ポートフォリオ全体のカーボンフットプリント、気候変動に伴い⽣じる異常気象リスクに対するエクスポージャー等)。また、個別案件を通じて得られたESGの知⾒やベストプラクティスは、貴ファンドの他の個別案件に対してどのように応⽤していますか。
  6. ESG上の論点を、契約書⾯や投資後の事業計画に盛り込むアプローチ及びプロセスにつきご教⽰ください。
  7. (i) ESGモニタリングおよび(ii) ESG対応を巡る、貴ファンドの組織内における責任の所在につき説明してください。ESGに関わるメンバーと、各メンバーの担う役割・肩書・経歴を⽰してください。また、貴ファンドがESGに関して活⽤している外部リソースについても説明してください。
  8. 貴ファンドの役職員に対し、投資活動におけるESGの重要性を理解・把握するための研修制度、補助制度または外部リソースを提供していますか。具体的な研修・補助の内容についてもご教⽰ください。
引用元:https://www.unpri.org/download?ac=5729

ファンドマネージャーの投資実⾏後におけるESG

最後に、実際に投資が実行された後、株主としてどのように投資対象会社に対してESGの観点からの働きかけを行っているのか、直近実績の開示を含め問われています。

3. 貴ファンドは、投資先が⾏うESGリスクやESGを通じたバリューアップ機会への対応に対して、株主としてどのように寄与していますか。

  1. 投資先における⼗分なESG関連能⼒の有無を巡る、貴ファンドとしての評価プロセスをご教⽰ください。各投資先の経営陣がESGに⼗分なリソースを割けるよう、貴ファンドとしては投資先に対してどのように働きかけていますか。
  2. 貴ファンドは投資先におけるESG対応に関し、どのようなモニタリングプロセスを導⼊していますか。投資先における取締役会の議題に、ESGリスク報告(⻑期的なリスクを含む)は含まれていますか。
  3. 貴ファンドにおいてはESGパフォーマンスの計測のために、どのようなデータを収集していますか。また、投資先に課すESGパフォーマンス⽬標をどのように定義していますか。
  4. <エクイティ投資のみを⾏っているファンドマネージャー向けの質問>
    貴ファンドが投資先におけるESG対応にどのように主体的に貢献したか、その実例を2、3挙げてください。
    <デット投資・エクイティ投資の双⽅を⾏っているファンドマネージャー向けの質問>
    ESGにおけるプラスの成果を上げるために、貴ファンドが投資先の経営陣との協働等を通じて投資先をサポートした取組事例を⽰してください(ないしは、(貴ファンドがESG上のサポートを施すまでもなく)投資先において既に導⼊されていた優れたESGの取組事例を挙げてください)。
  5. 投資先の財務パフォーマンスまたはESGパフォーマンスに対する、個別のESG対応のインパクトを計測していますか。計測している場合には、ESGとパフォーマンスとの相関関係をどのようにして特定できるかにつきご説明ください。
  6. <エクイティ投資のみを⾏っているファンドマネージャー向けの質問>
    貴ファンドは、投資先におけるESG対応向上を⽬的として、投資先経営陣との対話ルートをどのように活⽤していますか。
  7. 貴ファンドのエグジット判断において、ESGをどのように織り込んでいますか。

4. ファンドマネージャーがインフラファンド投資家に対してコミットしたESG⽅針(ESGを巡る投資家報告や重⼤な影響を及ぼすESG事象が発現した時の対応を含む)に従ってファンドを運⽤していることを、インフラファンド投資家としてはどのようにモニタリングでき、かつ必要な場合にファンドマネージャーに対してどのようにそれを要求できますか。

  1. ファンドマネージャーがインフラファンド投資家に対してESG報告を⾏う際、どのような報告ルートを⽤いていますか。先⾏ファンドにおけるESGの投資家報告のサンプルを御開⽰ください。過去の適切なサンプル事例が存在しない場合は、ESGの投資家報告を導⼊する⽤意があるか否かをご教⽰ください。
  2. ESGは、LP諮問委員会(Limited Partners Advisory Committee)・投資家年次総会・年次報告・四半期報告の項⽬に含まれていますか。
  3. 重⼤な影響を及ぼすESG事象が発現した場合における、投資家報告(その後の投資家向けアップデートを含む)のあり⽅をご説明ください。
引用元:https://www.unpri.org/download?ac=5729

おわりに

いかがでしたでしょうか。

筆者の感覚からすると、ESGDDはまだ日本においてはメジャーにはなっていない印象です。

そのため、ビジネスDDや財務DDなど、他のDDについては多くのウェブサイトや書籍でそのHow toが取り上げられている一方で、ESGDDについてはまだ多くの情報が出回っていないように見受けられます。

ESGDDの重要性が高まっていくことは、世界的な流れから見てほぼ間違いないでしょうから、今回取り上げた内容についてはいつか役に立つ日が来るのではないでしょうか。

ちなみにこのESG、今回少し調べてみて非常に奥が深い領域ということがよくわかりましたので、引き続きウォッチしていきたいと思います。

それではまた。

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